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■2018/07/10 『熱帯夜』
 ただ失われていくということに、本当はどうにも鈍感なんだろう。一度だけ触れ合う機会があった猫が死んだ。僕との間にそれほどの思い出があるわけではない。死んだということすらもWeb伝いに知った始末だ。数限りなく失われていくものの一つに、また何物かが付け足されたというだけなんだろう。ただそれだけ。テレビをつければ、数十年に一度の大雨で、目を覆いたくなるような被害だ。どうにもならないものにただ怯えて、無力感の中に眠るとき、蒸し暑い夜はただでさえ苦しい胸の中をさらに押しつぶす。

 「君は気づいてなかったみたいだけど、君の側にいる取るに足らない人たちにもそれぞれの人格や想いがあったり、好きな人がいたりもして、生きてるんだよ。君はそんなことにも想像が回らなかったみたいだけれども」。通り過ぎていく景色の中の全てに、意味があったなんてことを今更受け止めてしまうには、僕はあんまりにも脆弱だ。例えば打ち上げ花火のように、あまりに眩く、しかしどこにも残らず消えていくもののようなものであるならば、僕は見上げ、ともすれば涙することもできたのだろう。でも世界はどうもそういうものではないらしい。あの日、あの夏、砂浜につけた足跡はもう消えてしまっただろう。打ち上げ花火が消えてしまった後にはただ寝苦しい夜が広がっていた。光り瞬いた空は黒く塗りつぶされて、僕にはもう何も見えない。「君は知ろうともしなかったけれど、私たちは、私は、いつもここにいたんだよ」。

 夜が続けば、いずれこの熱帯夜も終わるだろう。夜空の全てを記憶しておくことはできない。夜空の全てを差し出して君に詫びることももうできやしない。いずれ終わる。ただ失われていくことが、望むと望まざるとにかかわらずここにある。打ち上げ花火は眩く咲いて、静かに消える。さようならを呟く暇だけを残して。

 鎮魂の祈りを込めて。さようならフランチ。
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