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■2017/04/24 『春の空の下では』
 散り果てた桜の下を行く。修理から帰った原付バイクは今日ものんびりと走る。昔よりもいささかにぎやかな声で。陽射しが鮮やかだ。風が緩やかだ。空は霞みながらも青く濡れていて、鳥達がありとあらゆることを歌っている。こんな日に思い出すのは、わけても思い出すのは、どうしてだろう、もういない人達のことだ。どれだけ願っても、もう会えない人達のことだ。散り果てた桜の下から覗き始めた新しい青が視界の端で揺れる。道の先に何があるのか、僕にはもう分かりきっていることだけが本当に、本当に残念だ。

 狂って行った人のこと。狂って行こうとしている人のこと。バイクを停めてコーヒーが冷めるまでの間、花の名残を見上げ続け ていると、自分にとってその二つはそれほど重要でもなければ曖昧でもなく、強いて言えば苦笑のようなものなのかもしれないと感じた。狂人から被る被害の幾つかをそれぞれ別の人間から受け取り、分類整理し、華々しくディスプレイしてみたところで、この春の空の下では何もかもが冗長だ。緑に覆われていく大地を踏んで、僕がいつも同じ気持ちになることと比べたら、どれも色褪せた写真のようなものだ。手垢に塗れた物ではなく手垢そのものだ。手の中のコーヒーを弄びながら、狂って去った人のことを思い出す。また思い出していることに戸惑う。会えない人たちのことを考え、空を見上げ、しばらく野の香りを嗅ぎ、コーヒーを飲み干して、僕はまた原付バイクのキックペダルを踏んだ。

 また一つ年を取った。それが無駄なことだとは思わないけど、意味のあることだとも思わない。世界は春を通り過ぎようとしている。花は散り去っていく。会えない人達のことを思い出す。ああそれにしてもなんて良い天気。道の果てはまだ少し遠い。春の霞の中にゆっくりとバイクを進める。
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