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■2018/09/12 『finally we are no one』
 それをどこで見たのだか分からないけど、と前置きして、グラスに落ちる氷のような澄んだ響きで君は、「私たちは一つじゃない」というような意味の短い英文を口ずさんだ。僕はそれが、北欧のエレクトロニカグループが今年リリースしたばかりの、素晴らしいアルバムのタイトルだということを知っていたのに、どうしてだかそれを口にする気にならずに、窓辺に肘をついたまま「finally」と繰り返す君の後姿をぼんやりと見ていた。外はもう間もなく夜がやってこようとしていた。最終的に、僕たちは夜の中に埋もれていくだろう。最終的に、僕たちはそれぞれが独りであることを知るだろう。最終的に。今こんなにも強く抱えている一つの決定的な確信は、正しく終わりを示しているということなのだろう。いつの間にか自分の手のひらをじっと見ていたことに気が付いた。いつの間にか僕のそんな姿を君がじっと見ていたことに気が付いた。いつの間にか、僕は君に言うべきことを言わなくてはならない時が来ていたことに気が付いた。finally。最終的に。決定的に。最後に、終わりに当たって、ついに、とうとう。

 一つになれない僕たちは一人になるしかなかったね。人は誰もが独りさと強がって、かといって、人はだれもが繋がっているとかいう戯言には笑うことしかできなくて、神や愛や運命やその他諸々の俗悪的なものを持ち出す輩には、燃え燻る様な酷い殺意しか湧かなくて。生まれてきてしまった意味もとうとう分からないまま、僕たちは、私たちは、みんなは、一つではなく、ただそこにあって消えていくだけの、どうしようもない事象であることを噛み締めて。そうだね。私たちは一つじゃなく、強固な個であって、脆弱な個人だった。言うべき言葉を口に乗せながら、僕は外に夜が来たことを視界の中心で知った。そして、最終的に、僕は、視界の外に崩れていくものを見ないでしまった。

 浅い眠りを繰り返し、僕はもう自分の手がどこにあるのかも分からない。肩を並べて歩いたこともあったね。本当はそれだけでよかったのだろう。一つだとかなんだとか、本当はそんなことはどうでもよかったのだろう。終わりにあたって。今更僕はそんなことを言葉にし、苦く微笑む。やがて悲しむことも恐れることも畏れることもない場所に行く。ついに何もない場所に行く。終に、そんな場所に行ければいいと思う。本当に行ければいいと思う。
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