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■2018/09/23 『よく黙り』
 外出がますます億劫になっていく。うるさいと、そんな風に感じることばかり増えていく。加齢の為か、他にそれなりの言い訳があるのかはわからない。訪れた名もない飲食店で、中年を少し過ぎようとしている男性がテレビを見ながら世情を嘆いていた。彼らの中で、人情と常識は世の中から失われて久しいらしかった。僕はそんなことを大声で話す汚い言葉遣いを、聞きたくもないのに耳に入れながら、安価なのにもかかわらず、とてもよく工夫された食事を噛み締めた。

 こんな気持ちをどう言えばいいのか分からない。どうすればいいのか分からない。こんな気持ちは。黙って食事を終え、しばらくその工夫について考え、自分の中である程度の納得を得てから席を立ち、僕は家に帰った。陽射しの強い日だった。まるで夏が一日だけ帰ってきたかのようだった。まるですべてが正しいかのような青空だった。それはいつかどこかで見てきたもののようだった。いつしかどこかに見失ってきたもののようだった。

 僕はよく笑いよく話しよく怒り、よく黙った。やがて、黙っている時間が長くなっていった。いずれ、本当の沈黙を得た時、僕はやっと一息つき、静かに消えていくことができるのだろう。よく笑いよく話しよく怒ったことの意味もすべて忘れて。僕は世界を愛さない。僕は人を愛さない。ただその営為のみを愛する。静かに燃え尽きていくもの、波に浚われ掠れ消えていくもの、春の風の前の塵の如くもの、降り注いだ端から地へと消えていく青空の揺らぎのようなもの、切り倒された桜の老木のようなもの、ボクが手の内から数限りなく失ってきたものを愛す。数限りなく憎んだことその一切の苦痛が消えていく、その、いつかを信じる。
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