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■2019/10/15 『黒に白に、そして青の中に』
 デジタルナイズされたそれは、写真未満の画像データに過ぎない。想い出は色褪せず、いつまでも鮮やかに瑞々しく。それを見つめるぼんやりとした目だけが年老いていく。小さなディスプレイに映った過去をポケットに放り込んだ後で、ひとしきり貧乏ゆすりをして。ようやく、と言った体で僕は引き出しを漁り、一枚の色褪せた写真を見つけ出す。君がそこにいた。過去がそこにいた。色褪せた過去だ。色褪せた君だ。色褪せた恋だ。色褪せた写真を見ながら僕は君と街に行った時のことを思い出す。目が回るような雑踏の中での待ち合わせを。君が僕を見つけて、ふと笑顔になったことを。

 見上げればそこは呆れるような青空だ。酷い、という一言では片づけられない被害を出して、歴史的な台風は去った。一晩中続いた嵐の後の、人を馬鹿にしたようなあの青空を僕は生涯忘れないだろう。誰もが望みながら、決して信じない永遠が至る所にある。消えていく日々や、消えていく人々や、消えていく感性や、消えていく足跡や、消えていく君を、僕は忘れたくないと泣きじゃくりながら、それでもやはり永遠を信じられずに擦り消えていく。色褪せたものは思い出ではないのだろう。色褪せたものは君ではないのだろう。色褪せたものは恋ではないのだろう。色褪せたものは世界でも空でも言葉でも歌でも小鳥でもなく、言うのも憚れるつまらない答えでしかないのだろう。色褪せた写真を見ながら僕は思い出していた。雑踏の中で不安そうに俯いていた君が僕に気づいて、ふと笑顔になったことを。僕は忘れられずにいる。

 色褪せない情報端末を指先ではじいて、僕は出かける。バイクで、自転車で、徒歩で、夢の中で。どうしようもないほどの強さで歴史的な台風が破壊していったものの多さに眩暈を覚える。まるで夏の日の名残のようなそれは現実感に乏しく、ひたすら白く、黒く、そして青い。僕達の未来は暴力的な仕組みで決められてしまうのかもしれない。でも、色褪せていく世界の中ではそんなことはどうでもいいことだ。ああ本当にどうでもいいことなんだよ。
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