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■2018/04/12 『新しい場所』
 どこからか甘い匂いが運ばれてくる。視線の先で見知らぬ花々が揺れている。新居の庭先にどこか気まぐれな風に咲き誇っているその花の名前はムスカリと言って、麝香のムスクと同じ意味だと、何となく眺めたwebサイトが説明してくれた。それにどれほどの意味があるのかなんて知らない。ただこの可憐な花が持つ不似合いな花言葉のような気持ちとは程遠い感情で、僕はそれを見る。

 慌ただしい転居から2週間が過ぎようとしている。地縁の無い場所で、僕たちは平屋の貸家を借りた。戸建ての3LDKはそれなりに年季の入っているものではあったけれども、水回りや床はリフォームされているし、僕や妻(今年の1月27日にやむを得ず入籍した)の個別の部屋はあるし、それぞれの部屋は7畳もあるし、前庭に裏庭、加えてプレハブまでついてくるし、と、列挙したくてもできないほど僕たちに分不相応な物件だ。ここでまたしばらく生きる。もう何回目になるのか分からない引っ越しには、今回はなんだか本当にくたびれてしまったから、今度は5、6年はここにいたいねとぼんやり話している。

 どこからか甘い匂いが運ばれてくる。おもてにあらゆる緑が再生する。ふと思い立って庭に幾つかの花の種子を蒔いた。早ければ5月の終わりにはその姿を見せてくれるそうだ。花の種を求めることも、ましてやそれを植えてみようと思ったこともこれまでにはなかった。ささやかな花壇に日が差す。外に飛行機が飛ぶのが分かる。目を細めながら新しい場所を見つめるとき、僕の窓は開かれる。僕は微笑む。
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