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■2018/10/30 『暮れ方の』
 空の遠さに秋を知りながら、暦の上の季節が間もなく冬であることにおののいて、秋という言葉を使うことに慣れもしない内にまた次の季節は来るだろう。空の果てには何があるのだろう。そんな、幼い頃の焦燥をふと思い出す。一抹の苦味とともに。ああ、世界は変わっていないのだろうか。それとも大きく変わってしまったのだろうか。変わったのはきっと僕なんだろう。そんなよくある一つの形式にはまり込んでしまった。事実を並べればきっとそんなところに過ぎないのだろう。吹き抜ける風に別れの気配を感じて、夕景を振り仰ぐ。

 やがて窓は閉じられるだろう。やがて扉は閉まるだろう。別れはきっといつでもこんな風だ。最新式のお別れの作法では、近隣への配慮という大義名分のもと、僕たちの愛しい人は本来のそうあるべき量の煙になることもできないから、雲や雨になって僕たちの上に降り注ぐこともないのだろう。唯々消えていく日々。間もなく冬は来る。秋を受け止める覚悟も決まらない内に、速やかに。お別れを言わなければならない。僕達はお別れをしなくてはならない。手を大きく振って、大きな声で、遠ざかっていかなくてはならない。ありふれた人生が終わっていく。ありふれた風情で。ありふれてあるということに、そうであることができた自分に、驚きを禁じ得ない。立ち尽くす僕の目の前をあらゆるものが通り過ぎていく。僕はそれら一つ一つに手を伸ばそうとしては諦める。せめてもと見苦しく別れの言葉を探しては流される。やがて窓は閉じられるだろう。やがて扉は閉まるだろう。焼き尽くされるとき、僕たちはいなくなる。その先が、その先なんてものが、存在しなければいいのにと思う。

 結局、君に言える言葉なんてこんなものだ。傍らに置いた手に絡められる指をそっと握り返して、夕景を眺めよう。僕達はなんて白々しいのだろう。世界は暮れる。秋は終わる。間もなく来る冬へ、僕たちは何を準備したらいいのか、それすらもまだあやふやなままだけれど、今はただ暮れ方の光の名残に身を流している。きっとそれでいい。
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