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■2020/09/12 『暮れなずみ』
 泥みたいにどろどろになりながら暮れなずむ道を歩いた。夏は中々去ろうとはしなかった。半ば自暴自棄みたいな陽射しと湿度に焼かれ、川の水面に浮かぶ水鳥は奇妙に美しい横っ腹を見せたまま物も言わずに流されていく。

 ここでしなければならないことが有ったような気がしていた。ここでしなければいけないことが何なのか分からなかった。ここでしなければいけない事なんて結局何もなかった。ここで成し遂げられたものは何一つなく、こんなつまらない場所で酷く消耗しつつ、なすすべもなく。僕は三十代最後の夏を失おうとしていた。

 ふと顔を上げれば日が沈むのもずいぶん早くなったものだ。永遠の様な灼熱の夏もやがて当たり前のような顔をして去るのだろう。昔小さな本で読んだような素晴らしい積乱雲が東の空に立ち上がっている。西の空は見る気にもなれない。頬を伝う汗を拭う気力もないまま僕は南に向かって歩いた。南を図る鳥もこんな気持ちの中でいたのかもしれないなんてことを冗談めかして考えて、その酷い冗談に力なく笑った。

 暮れなずむ世界の中で輪郭まで曖昧になりながら、それでも例えば魂のありかなんてことを声高に叫べるか。不遜にも意思と名付けた思い込みで頭の中をいっぱいにしながらその実、古臭い枠組みの中から一歩も外に出ようとしない人々と一緒に生きて行けるか。泥臭い青臭さに首までつかりながら、しかしながら僕は明確に否やを唱えよう。暮れなずむ夏の終わりに一人ぼっちで泣けもせず重い足を引きずって歩きながら、それでも僕は拒絶する。夏は間もなく終わる。秋は間もなく来る。
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