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■2017/12/14 『冬の川辺』
 時間が過ぎていくことを許容できるようになったのはいつからだっただろう。誰かが死んだ記憶が薄れて思い出に変わった時か。自分の一番大切だった風景が跡形もなく崩されて人工物に埋め尽くされた時か。大人になってしまったと自覚した時か。去年か。今現在か。愛とかいう耳元で怒鳴り散らされる戯言を、諦観に似た感情で許せるようになった時か。一切は移ろいゆくということを受け止める覚悟ができた時か。僕が僕であるために立ち続けることをやめた時なのか。いつまでも続く耳鳴りのようなよしなしごとを、それでも抱きしめていけると気づいた時なのか。死についても生についてもその価値を見出せないことをやっと腑に落とせたあの時なのか。

 雪の降りしきる冬の川辺で、安いウィスキーになぜか氷を浮かべて、震えながら乾杯したあの日は、まるで奇跡のように美しい幻だね。君も僕も年を取り、大人になり、疎遠になった。僕の遠い幼馴染よ。君は元気でいるか。僕もすっかり冬に染まって今ここにいる。君は元気でいるのか。僕はここにいるよ。ここで、恥を忍んで生きている。今年も冬はここに来た。それは僕を満たし、世界を染める。なぜだろう。何度見ても、何年たっても冬の光景は綺麗だ。雪の中で僕は何度でも自失する。いくとせ過ぎても雪の中で僕は立ち止まり、凍えた心を静寂で満たす。そして何度も思い出す。しつこく思い出す。あの日を。あの年を。あの若さを。僕らの美しい夜を。

 いつかまたあの川辺でウィスキーを飲もう。冬の寒さに震えながらロックウィスキーを飲もう。雪が溶けたそれにゲラゲラ笑いながら。ああ僕たちはずいぶんと通り過ぎてしまったね。それは分かりきっていた未来だ。何もかもが明晰な、白黒の厳冬だ。いつかまた。いつか、僕たちがまた無邪気に笑いあえる時が来たならば、また。過ぎていく一切を許せる時が来たならば。過ぎていく一切を、諦められる時が来たならば、また。
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